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横浜地方裁判所 平成2年(ワ)426号 判決

主文

一、原告らがそれぞれ別表一記載のとおりの株式数を有する被告の株主であることを確認する。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、請求

一、請求の趣旨

主文同旨

二、請求の趣旨に対する答弁

第二、主張

一、請求の原因

1.(一) 被告は、ショッピングセンターの運営、不動産管理などの業務を行うことを目的として、昭和五八年一一月一日に設立された、資本金一億円、設立時の発行済株式総数二〇〇〇株(額面五万円)の株式会社である。

(二) 被告の株式二〇〇〇株のうち、一六二〇株は別表二ア欄記載のとおり引き受けられた。

(三) 残りの三八〇株は、濱野充功、松本敏雄、並木隆久の三名が濱野名義で引き受けた。その実質は、地元調整用株式として被告に留保されたものである。

2.(一) 地元調整用株式三八〇株のうち、三五二株は別表二イ欄記載のとおり譲渡された。

(二) 地元調整用株式のうち残り二八株と、光川昭三所有の株式四〇株は別表二ウ欄記載のとおり譲渡された。

(三) その後、別表二エ欄記載のとおり株式の譲渡が行われた。

3. 被告株式の譲渡については、定款により、取締役会の承認を要する旨が定められており、右の譲渡につきその承認がなされた。

4. 被告は、平成元年一二月一日に開催された臨時株主総会において、原告らが別表一記載の数の株式を所有することを否認した。

二、請求の原因に対する認否

1.(一) 請求の原因1(一)は認める。

(二) 同(二)は濱野の株数を除き認める。

(三) 同(三)は否認する。三八〇株の引受人は濱野である。

2. 同2(一)、(二)は否認する。

3. 同3のうち、取締役会の承認を要する定めがあることは認め、その余は否認する。

4. 同4は認める。株式の発行、譲渡の実際は別表三のとおりである。

三、抗弁

仮に原告ら主張の株式譲渡と取締役会による譲渡承認決議が存在するとしても、取締役会の招集手続が商法及び定款に違反しており、また、株券発行(昭和五九年一二月四日)前の譲渡については被告に対し効力を生じない。

四、抗弁に対する反論

被告は別表二ア及びイ欄の株数に応じた株券を発行した。

理由

一、請求の原因1(一)の事実及び被告の株式二〇〇〇株のうち、一六二〇株が別表二ア欄記載のとおり引き受けられたこと(ただし、濱野に関する部分を除く。)は争いがない。被告は濱野の引受株数は四四〇株であると主張し、かつ原告ら主張の株式譲渡と取締役会の承認を全面的に争うところ、前記争いのない事実および〈証拠〉によれば、以下の事実が認められる。

1. 被告肩書地近辺においては、昭和五八年以前、センターシーサイドなどの商店街が存在し、原告らの大多数の者及び濱野はセンターシーサイドで出店していたが、同年ころ、近辺にショッピングセンターが開設される話が持ち上がり、紆余曲折を経て、センターシーサイドとしてもショッピングセンターの開設に直接参画し出店する方向で話がまとまった。そこで、ショッピングセンター「ビアレ横浜」の開設に向けて、昭和五八年一一月一日、濱野を代表者として被告が設立された。

2. 被告設立時において株式二〇〇〇株(額面五万円)が発行されることになり、ビアレ横浜の出店者を株主とする基本方針に基づき、別表二ア欄記載のとおり役員に就任する者は六〇株、非役員は四〇株をそれぞれ引き受けた。残る三八〇株については、ショッピングセンターの開設に反対した他の周辺商店街との商業調整を円滑に進めるために使用することなどが考えられたため、とりあえず被告において留保することにし、払込代金一九〇〇万円は濱野名義で横浜銀行金沢シーサイド支店から借り入れて立替えておくこととした。したがって、株式の名義も、当初は形式上、役員の親戚等の名義を借用することが考えられたが、結局代表者である濱野名義にしておくことになった。

3. 右三八〇株について、調整用に留保しておく必要がなくなったため、被告は、取締役会において、昭和五九年六月、すべての株主に対し各一一株ずつを単価五万円で譲渡することを決定し、各株主にその旨通知した。払込みの方法は、同月一五日から二二日までの間に、この目的のために新たに開設した三菱銀行京浜富岡支店の濱野名義の口座へ振り込むこととされ、これに応じた株主が別表二イ欄記載のように各一一株ずつ合計三五二株の譲渡を受け、代金を振り込んだ。

4. 右三八〇株の残り二八株及びビアレ横浜への出店を取りやめた光川昭三の持ち株四〇株が、昭和五九年六月及び一二月ころ、別表二ウ欄記載のとおり譲渡された。被告が留保した株の譲渡は取締役会の決定に基づき行われ、光川の持ち株の譲渡に際しては、同人からの申立てに基づき、取締役会において譲受人と各譲渡の株数が決定され、代金決済後各譲受人から報告を受けて取締役会が譲渡を承認した。

5. 被告は、株券発行の準備を進め、右三八〇株の処理がすべて済んだ昭和五九年一二月四日の時点で、別紙二アないしウ欄記載の当時の持ち株数に応じて、各株主あてに株券を五〇株券、一〇株券、五株券及び一株券に分けて発行した。

6. その後も、ビアレ横浜のオープンした昭和六二年三月までの間に出店辞退者が相当数出たりしたため、同ショッピングセンターへの出店者が被告の株主となるという当初の方針に基づき、別表二エ欄記載のとおり、株式の譲渡が行われた。これらの譲渡についても、前記光川の場合と同様に処理され、各譲渡につき事前及び事後に取締役会への報告および承認が行われた。原告松本は、当時被告の取締役であったが、株券発行以降、各譲受人から取締役会へ譲渡の事実が報告されると、これに基づき株主名簿(甲一)を作成し、各譲渡の事実を記載した。

7. 昭和六二年三月、ビアレ横浜の営業が開始されたが、その後、株主の間で、代表者である濱野の事業経営の不合理性や会計処理の不明朗さに対する疑惑が広がり、原告らの一部の者が平成元年一〇月一九日付けで当時の全取締役解任及び新取締役の選任を議題とする臨時株主総会の開催を請求し、これを受けて、同年一二月一日に開催された総会において、議長を務める濱野が突然原告らの所有株式数を否定する態度に出た。原告らは、同年、被告及び原告らの所有株式数を争う濱野ら役員に対して職務執行停止等の保全処分を申し立てたが、同二年五月七日、本件の終局的解決に至るまでの間原告ら主張の所有株式数を暫定的に認めるなどの条項で和解が成立した。

二、右認定の事実によれば、被告の株式は別表二ア欄記載のとおり引き受けられて、イないしエ欄記載のとおり譲渡され、その現時点での所有状況は、同表オ欄記載のとおりとなったことが認められる。なお、三八〇株のいわゆる地元調整用株式は、いったん濱野が引き受けて、同人から譲渡されたものと認めるのが相当である。

三、被告は、原告ら主張の株式譲渡についての取締役会の承認決議について、取締役会の議事録などこれを認めるに足りる証拠がないとして、その存在を否認する。確かに、譲渡承認の決議の存否を最も端的に証する取締役会の議事録のうち、書証として提出さているのは、昭和六〇年五月二六日に開催された取締役会における議事録の写し(甲一一2)のみである。これについて被告はその成立を否認するが、証拠(証人濱野、原告清水、同松本)によれば、同書面が当時被告顧問の地位にあって議事録作成の任務にあたっていた小沢により作成さたものと認められるから、取締役会議事録としての原本の存在及びそれが真正に成立したことを認めることができる。もっとも証人濱野は、同書面は業務執行会議についての小沢の手控えにすぎず、小沢に指示して当時取締役であった原告松本に保管させたものであると証言するが、同書面の体裁並びにそこに明記されている題名及び内容からして到底そのように読むことはできないことに加え、業務執行会議についての単なる小沢個人の手控えにすぎないものを、わざわざ原告松本に保管させたとする点も極めて不自然であって、同証言を採用することはできない。そして、その他の譲渡については、承認決議の存在を証する議事録は提出されていないけれども、各譲渡について事前及び事後に取締役会への報告及び承認が行われたことは、前認定のとおりである。

被告は、さらに、被告におけるすべての取締役会の招集手続が商法及び定款に違反するものであったことを前提として承認決議の効力を争うが、被告が設立以来株式会社として活動してきた事実に鑑みれば、右手続にさしたる瑕疵はなかったであろうと推認され、これを覆すに足りる証拠はない。

四、被告は株券発行前の株式譲渡の効力を争うところ、被告株式の株券が発行されたのは昭和五九年一二月四日であり、別表二イ及びウ欄記載の譲渡が右株券発行前に行われたことは前認定のとおりであるが、株券発行前の右株式譲渡については、いずれも被告(取締役会)において譲渡を承認し、譲渡後の持ち株数に応じて株券を発行しているのであるから、遅くとも右株券発行の時から、株式譲渡は被告に対してもその効力を生じたものというべきである。

五、以上により、原告らの請求はすべて理由がある。

(編集注・証拠の標目〈略〉)

別表、別紙〈略〉

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